彼の物語(偽りの優しさ)

彼は、自分自身が母親を嫌いだったことを本当の意味では、

知らなかった。

彼の生きるための時間を奪い、夢を叶えるための努力を

嘲り駄目にした人物の方が、先にそれに気が付いた。

色や欲で彼を釣ろうとしても、まったく無理なのに、

優しさを使えば、簡単にコントロール出来ることを

ある人物が気が付いた。

簡単に騙すことが出来る。

そのことに最初に気が付いたのは、彼を支配しようとして

躍起になっていた人物ではなく、彼のトレーナーだった。

彼のトレーナーは、彼をコントロール出来ないとぼやく

人物に向かって、そのことを言ったのだろうか?

優しくすれば、簡単に懐くと。

彼のトレーナーは、彼をコントロールする方法を彼を

支配しようとしている人物には、秘密にした。

その代わりに、「私なら彼を簡単に動かすことが出来るのに」

と言った。

彼のトレーナーは、何らかの理由でお金に困っていたのかも

知れないし、何らかの事情で、まとまったお金が欲しかった

だけかも知れない。

誰だって不本意な理由で、それまでの環境が急変することは、

避けたいものだが、ほとんどの問題は、お金で何とかなる。

彼のトレーナーは、彼個人を魅力的だと思っていたが、

それ以上にお金を生み出す価値があることに気が付いたのだろう。

彼を支配したがる人物に宣伝するかのように彼のことを発信

し始めた。

彼を支配したがる人物は、彼が亡くなった今でも彼の情報を

気にかけているが、生前は、彼に関する情報を徹底的に管理し、

彼の生活そのもの、交友関係にまで目を光らせていた。

彼に関して知らないことはないと思っていた。

しかし、ただのトレーナーに彼は心を開いても、彼は彼を

支配したがる人物に対しては、徹底的に心を閉ざしていた。

彼を支配したがる人物は、彼が彼の母親を愛していると

信じていた。

彼の母親の存在を引き合いに出せば、彼は、どんなことでも

いう事をきくと思っていた。

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確かにある時点までは、そうだった。

しかし、彼は、ある日を境に次第に自分自身が母親を嫌いで

あることに気が付き始めた。

そして彼を支配したがる人物に対して、そのことを徹底的に

隠していた。

だから当たり前なのだ。

彼を支配したがる人物が彼をコントロール出来るわけがない。

次第に脅してもすかしても、嫌な仕事を命じても彼は、淡々と

仕事と割り切って表情すら変えなくなった。

それなのに彼は、彼のトレーナーには、何でも話すのだ。

彼を支配したがる人物は、悔しくてたまらなかった。

最終的に彼をコントロールするために、優しい年上の女を

使うように助言したのも彼のトレーナーだった。

彼は、彼女に対して夢を叶えるまでの段取り以外のことも

話したが、それらは、彼を支配したがる人物に全て筒抜けだった。

彼自身が母親に対する本当の感情に気が付いていたら、偽りの

優しさに引っかかることは、なかっただろう。

その結果、ありとあらゆる情報を把握されなければ、どこかに

別な道が残っていたかも知れない。

しかし、更に心の奥底では、彼は母親を好きだったのかも知れない。

だからこそ、最も重要な局面で優しさに騙されたのかも知れれない。

何もかも話さなければ、一つくらい逃げられる場所が残っていた

かも知れないけれども、辛すぎる7年間を走り続けられたのは、

それらの優しさのお陰であることは、間違いない。

母親を嫌うと偽りの優しさに簡単に振り回されるけれども

その母親が彼自身を守ってくれなければ、彼は、どうすれば

良かったのだろうか?

理想の優しさを自分自身に課して無償の愛を、彼以上に愛に

絶望している幼い人たちに捧げるしかなかったのだろうか。

理想は、愛に飢える人たちを切り刻む刀かも知れないのに、

彼は、頑張り続けた。

どんな愛にも闇があるから、一つの翼だけでは、どこへもいけない。

無償の愛を永遠に背負えるのは、神がいるのならば、そのような

存在だけだ。

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