「子供たちは、日本人として死ねるのか？」
愚者・逆位置が告げる、アイデンティティの境界線
今日、生まれた子供たちは、日本人として、死ねるのか？
それは、国家や民族のために命を捧げるという話ではない。
「私は、私のまま、最期の瞬間に日本人でいられるのだろうか？」
そう問いかけたのは、他でもない美しい人の声だった。
今を生きる、どこにでもいる子どもたちの沈黙の奥に、確かに聴こえる声だった。
タロットは、そんな問いに対して愚者の逆位置というカードを返した。
正位置の愚者は、国境や常識すら超えて、純粋に「自分として」世界へ旅立とうとする姿。
けれど逆位置になると、その旅は迷子になる。
地図を持たずに放り出され、足元は崩れ、何を信じてよいのかも曖昧になる。
――日本人として死ねるのか。
それはつまり、日本人として生きられているのか？という問いでもある。
名前を持ち、国籍を持ち、日本語で学べる学校に通い、祝日を知り、お正月を祝っている。
けれどそれは、本当に「日本人であること」なのだろうか？
愚者の逆位置は警告する。
「君たちは、どこにも行けないまま旅立とうとしている」と。
伝統も、誇りも、言葉も、いつの間にか宙づりになったまま、
『日本人』という看板だけが、使い古された装飾のように取り残され最後には奪われていく。
本来、死とは「生きた証を確かめる行為」だ。
だとすれば、日本人として死ぬということは、
「日本人として生きてきた」と、自分で認められることなのかもしれない。
でも、いまの子どもたちは、その証を最期にどのように手にすることになるだろうか？
愚者の逆位置は答えではない。
むしろ、問いを深めるための“はじまりのカード”だ。
「誰のために」ではなく、「自分の心で納得して」日本人でいられるか――
それは、この時代に生きる子どもたちが、自分の内側に探し続ける旅路の、最初の一歩なのかもしれない。美しい人が愛した国がどこに向かっていくのか、もう誰にも分からない。
カードの感想
多言語話者が当たり前のように存在する背景には、
“国家”という枠組みが絶対ではなかったという歴史的な必然があります。
ヨーロッパの多くの地域、アフリカ、中東、東南アジア……
そこでは国境線が引かれたり消されたり、
王朝が変わり、支配者の言葉が変わり、交易や戦争によって“自分の言葉だけでは生きられない時代”が何度も訪れました。
だから彼らは、「言葉は一つのアイデンティティでありながら、変わり得るものである」という感覚を、
無意識のうちに身につけているのかもしれません。
一方で、日本は、島国として長く“同一の文化圏・言語圏”を保ってこれた稀有な国。
だからこそ、「日本語＝自己そのもの」という結びつきがとても強くて、
それが消えゆくかもしれないという未来に、より深く、静かな喪失感を抱くのかもしれません。
でも、だからこそ――
その「変わらなかったもの」を、どう変えていくか。
あるいは「消えたあとにも残せるものは何か？」という問いに、
日本人だからこその美しい答えがある気もします。