黄金のコロッケ
蓮は、昔ながらのコロッケが好きだった。
サクサクの衣を噛むと、中からほくほくのじゃがいもが顔を出し、優しい甘みが広がる。そんなコロッケを食べると、幼いころ母が作ってくれた味を思い出す。しかし、最近のコロッケにはどこか物足りなさを感じていた。スーパーで買うと、衣はカリッとしているものの、食べた後に口の中に重たい油の後味が残る。それが気になって、どうしても満足できない。
「何かが違うんだよな……」
蓮はふと、自分で作れば納得のいくコロッケができるのではないかと思い立つ。さっそくキッチンに立ち、レシピを調べながら作り始めた。
第一回目の挑戦:いつもの油
まずは基本通り、市販のサラダ油を使って揚げてみた。衣のカリッとした食感は悪くない。中のじゃがいももホクホクしている。けれど、食べた後に残るあの**重い油の感覚**は、やはり変わらない。
「揚げたてなのに、なんでこんなにくどいんだ……?」
その違和感を確かめるために、いくつかの惣菜屋や専門店のコロッケを買い比べてみた。どこもそこそこ美味しいが、やはり後味が気になる。もしかすると、**問題は油そのものにあるのでは?
第二回目の試行錯誤:油の研究
蓮は調べ始めた。油には種類があり、それぞれ風味や揚がり方が違うらしい。
キャノーラ油(菜種油):軽く仕上がるが、あっさりしすぎる。
米油:酸化しにくく、すっきりとした後味。
ラード(豚脂):コクが出るが、やや重たい。
ごま油(少し混ぜる):香ばしさをプラスできる。
蓮は試しに、米油をメインにし、少量のごま油をブレンドすることにした。
最終挑戦:黄金のバランス
米油とごま油をブレンドし、温度を180℃に調整する。衣をつけたコロッケをそっと油に沈めると、「ジュワッ」と心地よい音が響いた。
蓮はじっくりと揚げ具合を見守りながら、菜箸で転がす。ほどなくして、衣がきつね色に変わり、理想の見た目になった。箸でつまむと、カリッとした手応えがある。
一口食べると——
「……うまい!」
衣はサクサクで、じゃがいもはふんわり甘い。そして何よりも、**油の後味が軽い!** くどさがなく、口の中がすっきりしている。それでいて、ごま油のほのかな香ばしさがほんのり漂い、コロッケの味をより引き立てている。
「これだ……!」
蓮は、つい笑みをこぼした。ようやく、自分の求めていた理想のコロッケにたどり着いたのだ。
満足の味と新たな発見
「油を変えるだけで、こんなに違うなんて……」
これまでのコロッケに満足できなかった理由は、単に「売り物だから」とか「作り方が悪い」わけではなかった。**使う油によって、味の印象が大きく変わる**のだ。
蓮は、自分で作った黄金色のコロッケを皿に並べ、満足げに頷いた。自分で工夫した結果、ようやく納得のいく味を作り上げることができたのだ。
「これからは、もう迷わないな。」
そうつぶやきながら、蓮はまた一つ、熱々のコロッケを頬張った。
——この一口が、最高のご褒美だ。
相応しいタロットカード
1.「愚者(The Fool)」— 新たな挑戦の始まり
物語の冒頭、蓮は「市販のコロッケに満足できない」という不満を抱え、衝動的に「自分で作ってみよう!」と思い立ちます。
これは、無垢で純粋な探求心と、新たな冒険へ踏み出す「愚者」の姿そのものです。
計画的ではなく、直感で行動を起こす点も「愚者」の特性に合致します。
2.「隠者(The Hermit)」— 試行錯誤と探求
蓮はコロッケの問題が「油」にあると気づき、調べ、実験を繰り返し、より良い選択肢を模索します。
この姿勢は「隠者」の特徴である知識の探求・深い思索にあたります。
人に頼らず、自分の力で答えを見つけようとする点も、「隠者」のカードの孤独な探求の象徴です。
3.「錬金術師(The Magician)」— 油の調合と黄金のバランス
油の研究を重ねた結果、蓮は米油とごま油のブレンドという「答え」を導き出し、ついに理想のコロッケを完成させます。
ここで彼は、**知識を実践に移し、創造的な力で理想を具現化する「魔術師」の領域に入ります。
食材と技術を駆使し、「黄金のバランス」を生み出した蓮は、まさに錬金術師のような存在です。
4.「太陽(The Sun)」— 成功と満足感
コロッケが完成し、一口食べた瞬間の満足感と幸福感は、「太陽」のカードそのものです。
「求めていた味にたどり着いた」「自分で答えを見つけられた」という達成感は、純粋な喜びや明るい未来の象徴である「太陽」と一致します。
物語のラストで、蓮が晴れ晴れとした気持ちでコロッケを頬張るシーンは、「太陽」の輝く成功を象徴しています。
総括:コロッケ作りのプロセスをタロットで解釈
「愚者」— 思い立ち、挑戦を始める
「隠者」— 深く考え、試行錯誤を重ねる
「魔術師」— 知識を活かし、新たな方法を編み出す
「太陽」— 成功し、満足感を得る。