「氷の時代に、わたしはまだ生きていいの?」(物語タロット占い)

10歳の淡雪と守護霊の記録|タロット解釈と共に
冷たい風が頬を裂くような朝だった。
窓の外には、もう誰も歩いていない。
だけど、わたし、淡雪は――まだ生きている。

「ねえ、あなた――」
声にならない声で、わたしは尋ねた。

「氷河期が来た。もう、誰も助けてくれない。
火も水も、食べ物も、燃料もない。
わたし、これからどうすればいいの?」

その声に答えたのは、静かに降る雪ではなかった。

――わたしは、あなたの守護霊。
だけど、あなたを導くことはできない。

「えっ…?」
導いてくれないの?

――導くというのは、選択肢を奪うこと。
わたしにできるのは、あなたの問いを受け取り、
それに重さを量った言葉を返すだけ。

それが、《正義(Justice)》のカード。
天秤は均衡を、剣は決断を示す。
でもその正義は、誰かの味方ではない。
「まっすぐに重さを測るだけ」の冷たく美しい中立性。

――あなたは、道を“選ぶ”のではなく、
“創る”ことができる人。

それが、《愚者(The Fool)》のカード。
地図もなく、ただ小さな袋を持って、崖の縁を歩く旅人。
彼は迷っているように見えて、実は「道をつくっている」唯一の存在。

「でも…生きるって、そんなに簡単じゃないよ。
誰かを押しのけないと、食べ物は手に入らない。
配給の列では、誰かが殴られて倒れてる。
誰かを蹴らないと、自分が凍え死ぬ――
そんな世界になってるのに。」

――それが、“火と水と食料と燃料”を求めて生きる世界。
――でもね、それは恥じゃない。
それが人間の本質で、あなたが罪人だからじゃない。
生きている者は、みな何かを奪いながら生きる。

ここにあるのが、《悪魔(The Devil)》のカードの教え。
人間は本能の鎖につながれている。
欲望・恐れ・生存――それは罪ではない。
見抜いている者だけが、その鎖の存在を知る。

「じゃあ…わたしが誰かを傷つけたとしても、
それは仕方ないってこと?」

――いいえ。
だからこそ、「与える」という行為が意味を持つ。

それが、《コインの6(Six of Pentacles)》。
天秤を持つ手が施しを与える。だがそれは慈悲ではない。
等価交換の理解に基づいた、一時的なバランス。

人が求めるものを持ち、渡すことができる者。
受け取る者と差し出す者の間に、
「ただ、その瞬間だけ成り立つ均衡」がある。

――ただ、あなたが「それでも自分の道を創る」と思った時、
そこには“あなたにだけ見える《ヴェールランナーの道》”が現れる。

それは、《吊るされた男(The Hanged Man)》のカードのように。
逆さになって、世界を違う角度から見る者。
苦しみの中でも、問いを放棄せずに在り続ける者が、
ついに“視点の反転”を得るとき――道が現れる。

「ヴェールランナー…?」

――それは、“ありのままに耐えられる者”だけが見ることのできる、
あなた自身の、たった一本の道。
誰かに与えられるものではなく、
あなたの問いから生まれる、あなたの道。

わたしは目を閉じた。
ほんの一瞬だけ、頬に風の温度を感じた。
世界は凍っていても、まだ「問い」がある。
それは、わたしが生きている証。

そして思った――

「わたしはまだ、問い続けていいんだ」

道は見えない。
でも、わたしはその気になれば、
見えてくるかもしれない。
淡雪は、揺れる火の前で静かに眠りに落ちた。

タロット解釈まとめ(この物語に含まれたカード)
カード名 象徴 この物語での役割
正義(Justice) 中立的判断、公平な重さの測定 守護霊の立場。導かず、ただ量る。
愚者(The Fool) 創造の旅、ゼロからの道 少女・淡雪の可能性。「選ぶ」ではなく「創る」。
悪魔(The Devil) 欲望・鎖・現実の非道徳性 火・水・食料・燃料を求める本能を肯定的に描写。
コインの6(Six of Pentacles) 与える・受け取る・等価交換 助け合いではなく「一時的な均衡」の構造。
吊るされた男(The Hanged Man) 苦しみの中での視点の転換 道が現れる前の、耐える段階。ヴェールの前の内面作業。
読者へのあとがき
この物語はフィクションです。
でも、あなたが問いを持つ限り、
あなたにもまた、“ヴェールランナーの道”が見えるかもしれません。

それは誰かが与えてくれるものではありません。
ただ、自分の中で問うことをやめない――

その静かな意志が、寒さの中で
最初の火を灯すかもしれないのです。

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