音には、意味がないことがあります。
でも、意味がないからこそ、まっすぐ心に届くことがあります。
たとえば、誰かの声の調子、ふとしたリズム、笑いの合間に響く一音。
それが知らない外国語であっても、
その響きを何となく好きと感じたらどうでしょうか?
それは、若い男女が静かに交わしていた、ちょっとだけ秘密めいたやり取りでした。
彼女の声が、くすくすと笑いながら「うらぁ」
彼もそれに応えるように「うらぁ、うらぁ」と。
そっとタロットカードをめくり始めます。
ロシア語で「ウラ(Ура)」といえば、「万歳!」や「やったー!」の意味を持つ、明るく力強い言葉になります。
しかし、このとき聞こえた「うらぁ」は、そんな勢いのある叫びではなく、もっと、やわらかくて、甘くて、どこかじゃれ合うような、恋人たちの内緒話のような響きでした。
まるで、「いま、わたしたち、ちょっとだけ幸せだね」と
お互いにそっと頷き合っているような、そんな音に聞こえました。
ロシア語は、まったく知らないの正確に言えば、音が「聴こえた」という感じになります。
この響きが、タロットのどのカードに宿っているとしたら?
響きの中に浮かび上がるカードたち
まず最初に浮かんだのは、カップの2のカード。
心が通じ合う瞬間。言葉にしなくても伝わる「うらぁ」という喜びの交換。
静かに繰り返されるその音のリズムが、このカードのバランスそのもののように感じられました。
続いて浮かんだのは、カップのペイジのカード。
ときめき、照れくささ、まだ慣れない感情の揺れを表しています。
「うらぁ」とおどけながらも、その奥にある「もっと相手に近づきたい」という純粋な願いが感じられます。
そして、ふと思い出したものに、愚者(The Fool)の無邪気さもあります。
未来のことなんて、まだ気にかける必要がない何の意図もない、ただ、「今ここで」一緒に笑えることが嬉しいと読むことが出来るカードになります。
そんな気持ちのかけらが、「うらぁ、うらぁ」という響きに溶けている気がしました。
音のなかにあるカードの裏側
タロットカードは、カードデザインに様々なメッセージがありますが、占いを続けてきて感じるのは、本当に大切なことは、目に見えない「空気」や「響き」の中に潜んでいます。
ロシア語で「ちょっとだけ」を意味する「чуть-чуть(チュッチュッ)」という響きもそうかも知れません。それは、どこかしら、カップのペイジのカードの囁きのようで、
「やりすぎない、でも気持ちはちゃんとあるよ」という、繊細な表現力を感じさせます。
意味を超えて、音がカードに語りかけてきます。
そのような感覚は、タロット占いをまるで音楽のようにしてくれます。
響きをめぐるタロット
外国語の響きを聴くとき、しばしば「これはどのカードの声だろう?」と考えます。
それは、語学学習ではなく、感覚の遊びかも知れません。
辞書には載っていないけれど、心のどこかで理解出来るように感じられるものがあります。
たとえば、「うらぁ」というロシア語の響きは、辞書的に、ただの「万歳」ではなく、ふたりの距離がそっと近づいたときの、ささやかな祝福、クラッカーのように弾けています。
そんな音に気づいたとき、タロットは静かにページを引くのも楽しいかも知れません。
誰かの言葉の響きに心を奪われたら、それがどのカードの囁きなのか、ぜひ想像してみてください。「意味」ではなく「響き」に耳を澄ますと、タロットカードがもっと深く、柔らかくなるかも知れません。