封印が解かれた午後——消えた少女と戦死者の声(コインの3・節制)

ある日の午後、妹とその友人が兄のアパートを訪れた。兄は仕事で外出しており、しばらく使われていない部屋の掃除を頼まれていた。

部屋の中はほこりっぽく、窓も長らく開けられていないのか、空気がどこか重い。二人は床や棚を拭き、散らかった荷物を整理していた。そんな中、妹の友人が押し入れの奥に不自然に貼られた古びたお札を見つけた。黄ばんで端が剥がれかけており、何かの文字が書かれている。

「何これ? 変なのが貼ってあるよ。」

妹の友人は何の気なしにそれを剥がした。途端に、部屋の空気がガラリと変わった。今まで感じていた静けさが一変し、じっとりとした冷気が広がる。

「なんか……寒くない?」

妹がそう言った瞬間、バタンと窓が勝手に閉まり、部屋の照明が一瞬ちらついた。ふたりは顔を見合わせ、不気味な沈黙が流れる。

やがて兄が帰宅すると、妹の友人はソファに座ったまま妙な様子だった。彼女の姿勢は硬直し、視線は一点を見つめたまま動かない。そして、次の瞬間——

「……私は戦争で死んだ……」

低くしわがれた、明らかに彼女のものではない男の声が響いた。まるで50歳くらいの中年男性が話しているかのようだった。

兄と妹は凍りついた。妹の友人は唇を震わせながら続ける。

「弾が当たった……誰も助けてくれなかった……私はここにいる……」

まるで怨念を語るかのように、彼女の口から断片的な言葉が漏れる。彼女の目は虚ろで、その場にいるはずのない何かを見つめている。

兄はすぐに異常事態を察し、恐怖に駆られながらも、近くの教会へ走った。時間は夜に近づいており、道の暗がりが不吉な影を作っていた。

教会の牧師は、兄の話を聞くなり神妙な顔をし、急いでアパートへと向かった。部屋に入ると、少女は突然けいれんし、声を発することなく気絶した。

それが最後だった。

少女はその後、誰の前にも姿を現さなかった。家族や友人が捜索を続けても、行方は杳として知れない。警察も捜査を行ったが、手がかりは見つからなかった。

兄は、彼女の安否を案じながらタロットカードに手を伸ばした。

「彼女は無事なのか?」

引いたカードは『コインの3(正位置)』。

それは、協力、安定、社会的なつながりを象徴するカード。もしこのカードの意味を信じるなら、彼女は今どこかで新しい生活を送っているのかも知れません。だが、彼女はなぜ誰にも姿を見せないのか?その答えは、まだ闇の中にあります。

少女は、何故、連絡が取れないのか?:どこのか?(節制の逆位置)

少女の消失——欠落したものと、その行方

本来、「節制」のカードが正位置で出るならば、異なる器へと完全に注がれるように、ある環境から別の環境へとスムーズに移行することを示します。しかし、今回は 逆位置 です。

つまり、少女の移行は 不完全 だった。

何かが欠落した状態で、新たな環境に置かれている。

その「欠落」とは、一体何だったのか?

精神的な要素が欠落したならば —— 彼女は 心を癒す場所 にいるのかもしれない。何らかの精神的ショックにより、正常な判断ができず、自ら若しくは、家族が、連絡を絶った可能性がある。もしそうなら、彼女は 自発的に家族や友人のことを忘れようとしている のかもしれない。若しくは、連絡が出来ない環境、連絡が出来ない状態なのかも知れません。
身体的、もしくは社会的なつながりが欠落したならば —— 彼女は「この世界と適合できない状態」に陥っているかも知れません。たとえば、記憶の一部を失ったり、あるいは言葉を失った可能性もあります。誰かに保護されているが、連絡が取れる状態にない のかも知れません。
どちらにせよ、「コインの3(正位置)」が示す「協力」と「社会的なつながり」がある以上、彼女は どこかの環境で生きている 可能性が高いことになります。

ただし、「節制(逆位置)」が示す不調和は、その環境が完全に安全とは言えないことを暗示しています。 彼女はまだ「安定」しているとは限らないでしょう。

この状態が 修復可能なものなのか、それとも永続的なものなのか——その答えはまだ闇の中 にあります。

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