運命の輪が廻るとき – 許嫁と市場の少女
1. 騎士と市場の少女(運命の輪)
石畳の道を踏みしめながら、市場の喧騒の中を歩く。人々が賑わう中、豪奢な鎧をまとった騎士――名門貴族の跡取りであるレオンは、気が晴れない表情を浮かべていた。
「次の月が満ちる日、許嫁と顔を合わせることになる」と、父に告げられたのだ。
許嫁――それは一度も会ったことのない、名門の貴族令嬢。
「結婚とは家のためのもの」と言われても、心のどこかで納得できない。自由に愛を選ぶこともできず、誰かの決めた道を歩まねばならないという現実が、どうしても受け入れがたい。
そんな折、市場の片隅で、ふと目に留まった。
絵を描く少女――彼女の筆が、静かに動いていた。
色褪せたマントを羽織り、庶民のように見えるが、その手つきは気品に満ちている。彼女は紙の上に、次々と市場の風景を描き起こしていく。
レオンは知らず知らずのうちに足を止め、彼女の手元を見つめた。
「……素晴らしい絵ですね。」
少女は驚いたように顔を上げた。透き通るような青い瞳が、レオンを映す。
「ありがとうございます。でも……この絵は、ただの想像なんです。」
「想像?」
「はい。私は、まだ会ったことのない人を描いているんです。」
「会ったことのない人?」
少女は恥ずかしそうに笑い、言葉を紡いだ。
「未来の……私の旦那様の顔を。」
レオンの胸がざわついた。
彼女の絵に描かれていたのは――驚くほど、レオン自身に似た顔立ちだった。
レオンは少女に頼み、一枚の絵を描いてもらうことにした。
2. 許嫁との対面(正義)
それから幾日が過ぎた。
市場の少女が忘れられないまま、ついに許嫁との対面の日が訪れる。
「お待たせしました……。」
静かな声が響き、レオンは目を向ける。
そこにいたのは――あの日、市場で絵を描いていたあの少女だった。
「君が……」
少女は微笑んだ。
「はい。私はクラリス。貴方の許嫁です。」
まるで運命に導かれたかのような巡り合わせ。
クラリスは市場では自由に過ごしていたが、実際は厳格な貴族の娘であり、家のしがらみに縛られている。
「私は……この結婚に迷っています。」
レオンは言葉を失う。
彼女の家には裏の陰謀が渦巻いていることが明かされる。
許嫁との結婚は、単なる政略ではない。
王家の政敵が、クラリスの家を通じて王国の支配権を奪おうとしていたのだ。
3. 崩壊する運命(塔)
「レオン様……私は、貴方と結婚するべきではないのかもしれません。」
夜の庭園で、クラリスは言った。
「私の家は、王国を裏切ろうとしている。私は……貴方を裏切ることになるかもしれない。」
「そんなことはさせない。」
レオンは強く言い切る。
「君がたとえ何者であろうと、僕の心は変わらない。」
クラリスの瞳が揺れる。
運命とは、すべてが決まっているものではない。
その瞬間、王宮に告げる鐘の音が響き渡った。
反乱が始まったのだ。
レオンは剣を取り、クラリスの手を引いた。
運命の輪が、いま大きく廻り始める――。
タロットの解説
1. 運命の輪(Wheel of Fortune)
意味:巡り合い、運命的な変化、不可避な流れ。
物語との関係:市場での偶然の出会いが、後の運命を大きく動かす。
2. 恋人(The Lovers)
意味:選択、愛、試練。
物語との関係:レオンは義務としての結婚か、心の愛を貫くかを試される。
3. 正義(Justice)
意味:真実、責任、正しい判断。
物語との関係:クラリスの家が持つ秘密と、彼女自身の葛藤。
4. 塔(The Tower)
意味:崩壊、激変、試練。
物語との関係:王国の陰謀が露見し、レオンとクラリスの未来が危機に陥る。