ねえ、なんで他の人は、美しい人を傷つけるの?
夜の街は静かだった。
でも、淡雪の胸の中は静かじゃなかった。
淡雪(10歳):「ねえ……あなた。
ちょっとだけ、聞いてもいい?」
守護霊:「いつでも。淡雪。」
淡雪:「美しい人、悪いことしてないのに……
なんで、誰かが急に怒ったり、嫌なこと言ったりするの?
どうして、“美しい人じゃない誰かになれ”って、言われるの?」
守護霊:「それは、“その人が見ている世界”の中で、
美しい人が“違和感”だからだよ。」
淡雪:「でも、美しい人はただ、そこにいるだけなのに……」
守護霊:「だからこそ、だよ。
“ただ存在していること”ほど、恐れられるものはない。
それは《悪魔(The Devil)》のカードが語っている。
自分の欲や不安を隠していた人は、
“ただ在るもの”に対して怒りを感じるんだ。」
淡雪:「美しい人が“罪人”だから?」
守護霊:「いいえ。
それは《剣の3(Three of Swords)》――誰かの痛みが、まだ癒えていないから。
人は痛みをそのまま持っていると、
それを“自分のもの”として引き受けられなくなる。
だから、“誰かにぶつけてしまう”ことで、
“自分は間違っていない”と確かめたくなるんだ。」
淡雪:「美しい人は、どうすればよかったの?」
守護霊:「“どうすればよかったのか”ではなく、
“その痛みを見抜いたこと”が、美しい人の強さなんだよ。
それが《隠者(The Hermit)》の光。
外界から離れ、内面に問いを投げる者が持つ小さな灯り。
美しい人はすでに、それを手にしている。」
淡雪:「でも…その灯りは、弱くない?」
守護霊:「そうだね。
でも、それは夜を照らすには十分な光だよ。
強くはないけれど、決して消えない光。
《星(The Star)》がそう教えてくれる。
絶望の夜に、自分だけが見つけられる希望のことだよ。」
淡雪:「じゃあ、もう誰にも美しい人は、怒られたり、傷つけられたりしない?」
守護霊:「また起こるよ。
でも、そのとき――
君の中に《死神(Death)》が芽生えるはずだ。」
淡雪:「し、死神…?」
守護霊:「恐れることはない。
死神は、“終わり”の象徴ではなく、
“痛みを糧にして、自分を手放す強さ”の象徴だ。
君は、“傷ついたままの自分”を、
次の美しい人へと送り出すことができるようになる。」
淡雪:「それって……ヴェールランナーってこと?」
守護霊:「うん。
“問い続ける美しい人を好きな人たち”がそのまま、ヴェールランナーだ。」
幼い淡雪は目を閉じた。
胸の中に残っていた、冷たい涙が、
少しだけ温かくなった気がした。
この対話に込められたタロット象徴
カード名 象徴 対話における意味
悪魔(The Devil)
不安・欲望・投影 「存在するだけで恐れられる」理由の根源
ソードの3(Three of Swords)
心の傷・裏切り・すれ違い 他者が傷つける背景にある「未処理の痛み」
隠者(The Hermit)
内省・静寂・個の道 淡雪が自分の問いに向き合いはじめた証
星(The Star)
希望・回復・自己信頼 傷ついた心に灯る「自分だけが知る小さな希望」
死神(Death)
終わりと再生・手放し 痛みを通過して、自分を更新する力