告白のタロット――「魔術師・逆位置」から「節制・正位置」へ

告白

今回の物語のテーマは「告白」です。

直人と結衣は、お互いに嫌い合っているわけではありません。それどころか、すでに互いをかなり意識しています。

直人は結衣の近くにいたいと思っています。
結衣も、そんな直人が気になっています。

問題は「好きか、嫌いか」ではありません。

直人の「好き」が、告白として結衣に届かないことにあります。

この告白をタロットで読むなら、一回目と二回目でカードが変わります。

一回目の告白は「魔術師」の逆位置。
二回目の告白は「節制」の正位置。

そして、この二枚を続けて読むことで、直人の気持ちが告白という形を得て、少しずつ結衣へ浸透していく過程が見えてきます。

一回目の告白――魔術師・逆位置

魔術師の前には、四元素を象徴する道具が揃っています。

必要なものを用い、自らの意志によって、それまで存在しなかったものを現実へと表します。

告白もよく似ています。

「好き」という感情があるだけでは、まだ二人の関係は変わりません。

それを言葉にし、

「私はあなたと付き合いたい」

と相手に差し出して、初めて告白になります。

ところが、一回目の直人にはそれができません。

直人には結衣への好意があります。

一緒にいるのが楽しい。
近くにいたい。
店の外でも会いたい。
結衣が帰ると少し寂しい。

材料はすでにあります。

けれど、一つ足りないものがあります。

火の元素――自分自身の意志です。

だから直人の言葉は、

「結衣も、もし今みたいなの嫌じゃなければ」

「もうちょっと、その……こういう感じでいてもいいかなって」

となってしまいます。

一見すると、これは結衣の気持ちを尊重した優しい言葉にも見えます。

実際、直人は結衣を尊重しています。

しかし同時に、自分の意志を相手に預けてしまっています。

結衣が嫌でなければ。
結衣が望むのであれば。

では、直人自身はどうしたいのでしょうか。

そこがありません。

だから結衣は怒ります。

「直人がどうしたいか、何にも言ってない」

そして、もっと本質的なことを言います。

「でも、直人が何も言わないなら、私は何に返事すればいいの?」

直人は言葉を使っています。

けれど、その言葉によって何も生み出せていません。

結衣が返事をするための「告白」そのものが、まだ存在していないのです。

必要な材料を持っているのに、それを正しく扱えません。

自分の内側にあるものを、現実の形にできません。

ここに「魔術師・逆位置」が現れます。

結衣が要求した「火」

結衣は、直人に強引になってほしいわけではありません。

結衣自身が、

「私、自分で決めるよ」

「嫌なら嫌って言うし」

と言っています。

つまり、「私の意思を無視して、あなたの気持ちを押しつけて」

と言っているわけではありません。

むしろ逆です。

私の気持ちは私が決める。
だから、あなたの気持ちはあなたが決めて。

そう言っているのです。

直人には水があります。

相手への配慮。
優しさ。
受容。
結衣を困らせたくないという気持ち。

けれど、水だけでは告白になりません。

結衣が要求しているのは、その水を捨てることではなく、そこへ火を加えることです。

「俺は結衣と付き合いたい」

その一言を、自分自身の意志として言うことです。

一回目の告白が失敗したことで、直人は初めて、自分に足りなかった元素に気づきます。

二回目の告白――節制・正位置

二回目の告白で、カードは「節制」の正位置になります。

節制には、二つの杯のあいだで液体を移し替える天使が描かれています。

ここで重要なのは、二回目の直人が単純に「火の人」へ変わったわけではないことです。

結衣に言われたからといって、相手の気持ちを考えず、自分の欲望だけを押し出す人間になったわけではありません。

直人は直人のままです。

ただ、今まで持っていた水に、足りなかった火が加わりました。

「結衣と付き合いたい」

「もっと店の外でも会いたいし」

「結衣が来ると嬉しいし、帰ると……まあ、ちょっと寂しいし」

そして、結衣の後ろを何度もうろうろしていた理由について、

「近くにいたかった」

と認めます。

それまで行動として漏れ出していた感情が、一つずつ言葉になっていきます。

そして最後に、

「付き合ってほしい」

と差し出します。

一回目には存在しなかった「直人自身の意志」が、今度はきちんと入っています。

しかし、相手を尊重する気持ちも失われていません。

火だけでもありません。
水だけでもありません。

二つが混ざり、ようやく結衣が受け取れる「告白」になります。

これが、この物語における「節制」です。

二つの杯のあいだを流れるもの

この物語では、直人の気持ちは突然結衣へ届いたわけではありません。

最初は言葉ですらありません。

結衣の後ろを通る。

必要もないのに近くへ行く。

触れないぎりぎりの距離に立つ。

結衣はそれに気づきます。

「最近、私の後ろにいること多くない?」

まだ直人は答えられません。

けれど、結衣の中には少しずつ直人の存在が入り込んでいきます。

足音が分かる。
袖の動く音が分かる。
背中側の温度まで意識する。

そして結衣自身が、

「気になるから」

と言います。

「何が?」

「直人が」

まだ告白は成立していません。

それでも、直人の「近くにいたい」という気持ちは、すでに少しずつ結衣へ浸透しています。

節制の杯のあいだを流れる液体のように。

後ろから、正面へ

二回目の告白には、もう一つ大きな変化があります。

直人はいつものように結衣の後ろへ行こうとして、途中で止まります。

そして、

今度は後ろへ回らず、結衣の正面へ行きます。

これは二つの告白の違いを象徴しています。

一回目までの直人は、近づきたいのに正面から近づけません。

気持ちはあるのに言えません。

相手の反応を恐れて、自分の欲望を曖昧にしたまま、結衣の近くをうろうろしています。

しかし、二回目は違います。

正面に立ちます。

そして、

「結衣と付き合いたい」

と言います。

一度、

「結衣が――」

と言いかけます。

以前なら、ここから「結衣が嫌じゃなければ」と続いていたはずです。

しかし直人は自分で止めます。

そして言い直します。

「付き合いたい」

ここで初めて、自分の気持ちを相手の気持ちにすり替えず、そのまま差し出すことができました。

「手、つないでいい?」という節制

そして、この物語で節制を最もよく表しているのは、告白の後かもしれません。

恋人になった二人は、何をしていいのか分かりません。

そこで直人が聞きます。

「手、つないでいい?」

結衣は笑います。

「それは聞くんだ」

直人は答えます。

「これは聞く」

「何が違うの」

「分かんない」

直人は、すべてを自分で決める人間になったわけではありません。

相手を尊重するところは変わっていません。

ただし、

自分が何を望んでいるかを言うことと、
相手がそれを望んでいるかを確認することを、

ようやく同時にできるようになりました。

「付き合いたい」は、自分の意志です。

「手、つないでいい?」は、相手の意志への尊重です。

どちらか一方ではありません。

二つがちょうどよく混ざったところに、二人の関係が生まれます。

だから二回目の告白は「節制・正位置」なのです。

魔術師・逆位置から、節制・正位置へ

この二枚を組み合わせると、一つの流れが見えてきます。

魔術師・逆位置。

想いはある。
材料もある。
しかし、自分の意志が足りず、それを告白という形にできない。

そこへ結衣が「火」を要求します。

直人は自分の欲望を見つめ、

「付き合いたい」

という意志を取り戻します。

そして、

節制・正位置。

自分の欲望と相手への配慮。

火と水。

それらを混ぜ合わせ、相手が受け取れる形にして、二人のあいだへ流していきます。

だから、この二枚が表しているのは単純な、

「告白に失敗した。そして次は成功した」

ということではありません。

むしろ、自分の中にあった「好き」という感情を、相手へ届く「告白」へ変えていく過程なのです。

直人の気持ちは、最初からそこにありました。

結衣の気持ちも、すでにそこにありました。

足りなかったのは恋ではありません。

その二つのあいだを流れるための、正しい形でした。

魔術師の逆位置で形にならなかった想いが、足りない元素を知り、調整され、節制の二つの杯のあいだを流れていきます。

そして最後に、二人の手がつながります。

この物語の告白を二枚のタロットで読むなら、

「魔術師・逆位置」から「節制・正位置」へ。

それは、好きになる物語というよりも、

すでにそこにある「好き」を、相手へ届くものにする物語なのです。

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