彼の物語(独立と自立)

彼の生涯は、見る角度によっては、虐待かも知れません。

虐待の種類は、放置です。

彼の周囲には、働く大人がいたから、脱水症状を起こしたり、

栄養失調に陥ることがなかったのかも知れません。

しかし、もし、彼に才能がなければ、渇きと飢えで餓死

していた可能性があります。

周囲の大人から必要とされる状態は、彼が生き残るための

手段だったとも言えます。

彼の母親は、彼の何を必要としていたのか?

関わり方だけを大雑把に見れば、かなりドライな見方が

成り立つかも知れません。

それでも彼は、愛情に強く憧れていた様子が見られます。

こういうタイプの人は、ぐれることが出来ない。

ひたすら愛されるように努力を重ねます。

周囲に気を遣います。

彼には、途方もない才能があったけれども、巧妙に放置された

子供は、愛情を得られないのに束縛され憎悪だけを募らせていく。

その憎悪を自覚するのは、自力で人生を取り戻せる可能性が

ないことに気付いた時だ。

親の期待に答えられないほどの能力であればあるほど、言われた

通りに生き続けていくから、どこかで何かがささやかな破綻を

来した時に自分自身の本音を自覚する。

いつまでも母親の愛情に期待し続ける子供が悪いのかも知れない。

母親以外の人たちから何らかの能力と引き換えに温もりや優しさを

得てサバイバルする人たちは、大勢いる。

誰かがアイドルや清純派?女優の援交を暴いたが、もし、このような

背景があれば、その意味は、かなり変わったものになる。

彼にも、そのような話は、いくらでもあったかも知れない。

恐らく、あったはずだ。

しかし、どんなに寂しくても、苦しくても、そのようなものを

拒否する魂の持ち主も一定数いる。

要領よく出来ないとも言えるのかも知れない。

しかし、決してそうではない。

そのような魂の持ち主なのだ。

当然、彼も、その一人だ。

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これは、良いことでも悪いことでもない。

彼は、自分自身の魂の性質の影響で性格(自我)が複雑になってしまった。

努力すればするほど、複雑になっていく自我は、彼を縛った。

だから逃げ損ねたのだ。

7年前から、嫌、もっと以前に、ここは、おかしい、この世界は、

僕には、合わないと感じたはずだ。

彼の複雑さは、本当は、自分自身が辛くて寂しいという事実を、

誤魔化し続けた。

頑張る以外に他者からの愛情を得る手段が見出せなかったから?

それは、違う。

彼自身が立っていられないほどの不安が襲ってくるからだ。

辛くて寂しくても無限に頑張れたのは、根本的な何かから

引き剥がされてしまう眩暈が起こりそうな不安、心臓を直接

つかまれるような恐怖があったからだ。

彼にとって、本当の敵は、このような不安や恐怖だったから、

辛さや寂しさを理由に努力を止める理由には、ならなかった。

そして、あまりにも有能過ぎた彼は、遂に母親の愛情の正体を

客観視出来るほど、多くの人から、少しずつ愛情をもらうことに

成功した。

彼は、自分自身の力で宿命的な虐待を乗り越えて本当の父親を

見出した。

そして彼は、自由になる準備を開始した。

その時の彼は、もうシンプルだった。

それまでの複雑な彼では、なかった。

普通であれば、ここまで来れば、幸せになれる。

しかし、母親の愛情は、レバレッジが利いた状態でシステム化していた。

彼が寂しさや辛さを乗り越えるために複雑になっていったように、

母親の愛情は、高度にシステム化し、法律さえもくぐり抜けるほど

何重にもガードされていた。

そして彼がシンプルになれた時に、そのシステムも同じように、

シンプルな答えを用意した。

その時に彼は、自分自身が放置されただけではなく、差し出されていた

ことをはっきりと自覚した。

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