彼は、徹底的抗ったけれども、どのように考えても
自分自身に明るい未来が訪れないことを悟った。
全てを剥ぎ取られ、あらゆる出口を封じられてしまった。
彼は、はっきりとしない意識の中で今の自分に何が
出来るのか?
どうすれば目の前にいる卑劣な相手に一撃を加えることが
出来るのかを思った。
報われない思いが怒りを呼び起こしたのだ。
鈍い意識の中で適切に動けないはずと思われていた彼だったが、
怒りは、彼に最後の聡明さと体を動かす力を与えた。
その結果、卑劣な相手は、約束の時間を守れなくなった。
事の重大さを知って我を失った周囲の人間は、もう動くことが
出来ない彼に激しい暴力を加えた。
ボロボロになった彼を彼の部屋に戻すことも出来ないまま、
全ての協力者は、動き続けた。
卑劣な相手は、何としてでも約束の時間を守るために、
可能な限り修正を加えた結果、完全だった約束の時間に至る
演出は、崩れていった。
救急搬送されるはずだと聞いて彼のマンションの前に集まった
メディアは、肩透かしを食らい、何の収穫もなく帰途に着いた。
彼を運んだ記録だけを書くように命じられた職員がごねた結果、
運んだ記録は、なかなか上がってこなかった。
緻密に練られた全てを台無しにしたと言う意味では、彼は、
最後の最後まで聡明な男だったのかも知れない。
彼の星は、一撃を放てる配置を持っているからこそ、舞台が
映えたのだ。
彼は、最後まで自分自身がどのような舞台に立たされているのか、
自分自身を磨くつもりで意識していたのかも知れない。
そして彼を苦しめ続けた側が最も混乱する選択をしたのだ。